雨模様

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雨模様

 
なんだかおかしいと途中で気がついた
もうとうに着いていいはずのバス停が見あたらない
そういえばさっきからずっと
歩道橋ですれ違った人の顔を考えていたのだった
傘のうち うつむきかげんの口もとに笑みが浮かんでいた
知った顔に似ていたというわけでもなく
あまりの無防備さに驚いたのだ
他人の無意識の笑いを見ると妙に腹が立ち
自分がそんな顔を見られたくないからだろう
電車に向かい合わせた人の嬉しそうな笑みにも
ついと目を逸らせてしまうのに
それがさっきの顔には思わず見入ってしまった
傘があれほどに外から隔てた世界を作るのだ
雨のせいで道に迷うというのはこういうことかもしれない
 
あなたに逢った日も雨だった
降り込められていた駅ビルの入り口で
−− 怒ってはいけません この国の気候です
と 澄まして傘を取り出した
雨音でよく聞き取れないあなたの言葉に
いいかげんに返事をしながら
私は公園の藤棚の名残の花いろが
雨に滲んで そのまま ぼう と
夜の闇に流れ込んでいくのを見ていた
それから雨音はますます高くなり
もう なにを話しているかわからなくなっても
わたしとあなたはひとつ傘で
ほかの人とは別の世界に守られていた ような
だからわたしたちは交差点を渡りそこね
目印を見落とし ぬかるみを近道だと思ってしまったのでは
雨のせいでまだ迷い続けているのかもしれない
 
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公開日:2023年6月13日