夕むらさきに
咲きこぼれた藤の花いろが
あたりをにじませ暮色になじんでいく
人並に押され どこか降れるたびに
こんな日がいつまでもつづくはずがないと
曖昧な気持ちを持て余しながら歩いた
連休少しまえの藤祭り
わたしたちは
たがいに何も手に入れられないまま
躊躇いながら踏み出してしまったせいで
悔いに似た思い出ばかりが多かった
夢を見たい私を見つめる私がいて
酔うことさえできないのだった
藤は灯ったライトにやんわりと映え
複雑に憂いを秘めた貴婦人を思わせる
この花を愛した人は
夕暮れも好んだにちがいない
そぞろ歩いて伸ばした手のさき
あの紫が すうっと
初夏の闇に溶ければ物語のはじまり
―いい匂いだ
ああやって人恋し気に揺れているんだね
言いながらあなたは橋を渡っていく
花見客がみな去ったあとの
わたしたちのいない時間を思った
もうすぐ 色や輪郭を失う
無数のつぶやきに似た花房
ふいに
あなたの腕にすがりたくなる
胸に凝ったままのものを
暖かい夜のなかに放ってやりたくなった
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公開日:2023年5月7日