花に暮れて

HOME | エッセイ | 花に暮れて

 ゴールデンウイークが終わってしまいましたね。この時期は初夏の爽やかさより暑さや紫外線が恐ろしい。案の定、あちこちで夏日になり、おまけに災害国日本、このタイミングで地震まで起きるなんて、本当に大変なことでした。
 能登の方たちには心よりお見舞い申し上げます。
 やはり地球が熱くなりすぎたのも無関係ではないでしょう。
 二十年くらい前は初夏の花もちょうどゴールデンウイークが見頃でした。新年度が始まり、桜の開花に気が揉めて落ち着かなかったところにやっと連休がきて、葉桜から明るい日が漏れて来る頃、藤や躑躅が空間を彩りはじめる。さあ、花でも見ながら散歩でも、というのが私のゴールデンウイークだったのです。やはり一日くらい暑い日があって冷やし中華が食べたいと思う季節。それがこの温暖化で、桜の満開も三月に繰り上がり、藤や躑躅も四月を待ちかねるようにそわそわしている。春は年ごとに忙しくなってくる。
 それでも今年も二月の梅に始まって、たくさんお花見をしましたよ。梅はまあ、極端に時期が早まっているわけではないみたいです。京都の道真公の北野天満宮にも行きました。小雨に降られたのですが、清らかなすがしい風情でした。それから東京で、定番の湯島神社へ。文京区は梅祭りで、境内には舞台がしつらえられ、『婦系図』の主題歌で芸人さんが踊ったりしてました。お蔦、力の影法師と、こちらも口ずさみました。バタやん、とか、もう知ってる人も少ないでしょう。
 梅はいいですよね。観て佳し、食べて良し。それに香り。まさに馥郁。古歌も美しいものが多いし、夜の梅という羊羹のネーミングも素晴らしいと思います。
 このところ朝に余裕があり、ゆっくり煎茶を立てて梅干しを食べます。梅干しはできるだけシンプルなのを選んでいるので今食べているのは紫蘇と塩だけの濃紅の小粒梅。故郷の梅漬けに似た香りがして気に入ってます。
 湯島神社の境内には鏡花の筆塚があって、急に江戸を身近に感じさせます。江戸と明治のあわいに生きた文人の心意気と。
実は家にある鏡花の全集は亡くなった高野圭吾さんものを譲り受けたのですが、全部まだ読んでないので、気が咎めてます。
 
 それから、さくら、桜、サクラ、です。毎年都内で最低五か所くらい行きます。ひょんなことから発見する穴場がいくらもあるので、日本人は本当に桜を植えたがる民族だと思います。
 決まりものですから、上野と千鳥ヶ淵は必ず行きます。一度、村上水軍の末裔だという人が一緒で千鳥ヶ淵でボートに乗りました。花筏を指で散らしたりして久々の水面の間近い揺らぎが心地よかったです。
 ちなみに桜の花びらが散る速度と雪の降る速度は同じだそうです。どちらも思い起こすと幻のような気がしてくるのも似てます。
 『外科室』という作品の男女の愛も幻のようなお話。鏡花ならではの、この世にはなさそうな至上の愛の世界です。ふたりの出会いは植物園。汗ばむほどの五月の陽ざしに群れ咲く躑躅の色鮮やかさを思うと目が眩みそうです。玉三郎さんの映画も美しかったですね。今年は根津神社で満開を楽しみました。桜の満開の頃には既に蕾がほころんでいたので四月早々に行ったのですが、もう傍らには菖蒲まで咲いていました。
 亀戸の藤の花も二週間くらい花時が早くなりました。
 これでなかなか藤の花は気難しくて棚に弦だけがきっちり巻き付いたまま房がつかないものをよく見かけます。亀戸の藤は大振りに房が隙なく下りてきて、池からこちらを見上げる亀の数も大したもの。あと近所の小さな公園の見事な八重桜の老木の満開や、この公園には木瓜や山吹もあるのですが、一斉に絵具を流したような春の色も楽しませてもらいました。ベランダでは昨春買った薔薇が二十も花をつけています。
 この後は紫陽花ですね。こんなに花時がわっせわっせと早まってくると計画を立てるのが大変ですが、紫陽花なら花時が長そうだから大丈夫そう。潮来のあやめ祭りにも行きたい。行って舟に乗りたいです。ああでも、もちろん花ばかりにかまけているわけではありませんが。

公開日:2023年5月7日