花の日
さくらは時をとめる
爛漫の花のしたに立つと
あの日からどこへも行っていないと気づく
― それはいつかと問われるとあやしくて
ふり仰げばかぶさってくる
花の重みに目眩を感じながら
あの日だと思う
心の底に散り敷いた花びらを
ふと巻き上げる風に
あ あの日 と疼くように
あの日は
去ったのか 去られたのか
ひとりで花のなかにいたのは確かで
記憶が遠く入りまじり
切ない輪郭だけが迫ってくる
そもそもあれは花の日だったのか
あれは
雪明りに見たさくらではなかったか
白い雪をまとった木の下で
凍える死を夢見ていた
― 花の日は寒い
花びらが雪になり
雪は花まじりに吹雪いて
おそらく
なにか取り返しのつかない
思い違いをしたまま
あの日に
時がふり積もっていく
― 『たがいちがいの空』から
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公開日:2023年3月31日