今から三十年ほど前、アンナ・プリュクナルというポーランドから亡命した歌手が来日して人気を博しました。そのコンサートで歌われた「フランソワ・ヴィヨン」という歌が私は好きで、自分のために訳して歌っていました。
すると、それから十年くらいして、この歌を作ったブラート・オクジャワ本人が来日しました。現代の吟遊詩人とでもいうような人です。私はその時「フランソワ・ヴィヨン」が、もともとは「祈り」という題だったことを知りました。プリュクナルが来日して歌唱した当時、ロシアはまだソ連で、「祈り」という題では国外に出すことができなかったそうで。ゴルバチョフの政権に変わった時、オクジャワも、この歌も本当の題名で日本に来られたのでした。今とは反対の方向にロシアが動いていた頃でした。半世紀以上も生きると、こんな歴史の変遷にも立ちあうのだと感慨深いものがあります。
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祈り
地球がまわるかぎり
光りあるかぎりは
主よ あなたの恵みを
持たざるものを
学者にはひらめきを
臆病者に馬
幸せ者に富を
与えたまえ
地球がまわるかぎり
あなたにはできるはず
権力をのぞむ者には
限りない力を
清らかなものにせめて
ゆうべまでの命
カインには悔いを
与えたまえ
主よ 神よ
わたしは信じている
あなたの英知を
死にいく兵士は見る
天国への夢
誰もが信じている
あなたのお告げを
おのれのことさえ知らないままに
主よ 神よ
みどりの目をした主よ
まわる地球が不思議に思えるあいだに
炎と時とが残されたあいだ
ひとりひとりのうえに
あなたの恵みを
そして私の分もお忘れなく
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この歌は東洋音楽文庫から発売されていて、ネット上にも音付きの譜面がアップされているそうです。本の方は山之内 重美さんの監修なのですが、この曲だけ私の詩が入ってます。
次に挙げる歌も、オクジャワのコンサートのためにまとめて訳したのですが、もうほとんど歌われてはいないはずです。
・それにしても残念だな
・わが人生の歌
・青い風船
・ワロジャ・ヴィソツキー
・僕は歴史小説を書く
ロシア情勢が当時と変わりましたので、現代とは合わなくなってしまった詩もあり残念です。
一作一作思い出があります。ここまで書いて、ふと、詩をホットケーキに例えてみたらどうかと思いました。
なめらかに練った生地を、あの、虎のバターでこんがり焼いてテーブルに乗せます。すると、見知らぬ人がやってきて黙ってフォークでつついて食べ始めます。で、また別の誰かを呼んで食べるように勧めて皆でむしゃむしゃ食べます。美味しいらしのですが、作った人には誰も声をかけてくれません。それでは淋しいですよね。やはり声をかけて「美味しい」と言っていただきたいと思います。

アンナ・プリュクナル(1940年12月17日ワルシャワ生まれ)が歌う「François Villon / フランソワ・ヴィヨン」が収録されたこのアルバムはパリのマルカデ・スタジオで1979年に録音され、日本では1982年にRVCより発売されました。

ブラート・オクジャワ(Bulat Okudzhava ロシア語表記:Булат Окуджава)の「祈り / Molitva(Молитв)」は、1966年にオクジャワにより創唱された作品です。
その当時のレコードのジャケット写真がなかったので、ここには1976年に発売された別のアルバムの写真を掲載いたしました。
- 現在、この詩で歌われている方は、どうか是非私にご連絡くださるようお願いします。
詩の権利は作った人に属するもので、最初に歌われた方にあるのは初演権です。
ましてや人から人への転売は犯罪です。長い間そのことが誤解されてきましたが、ご理解いただければと存じます。アマチュアでひとりで口ずさむだけとおっしゃる方はともかく、ステージに立っていらっしゃる方やレッスンで使われている方は必ずご連絡ください。
また、今後歌いたい方もご連絡くだされば、歌についてのご説明もします。