言わずと知れたセルジュ・ラマの名曲です。
まさか、と思ったのですが、この歌もひとりで歩いています。
聞くところによると、ある歌手の方が別の方に勝手にあげてしまい、もらった方が教室のお弟子さんにレッスンしていたそうです。で、レッスンした方がお友達にコピーしてあげて、またそのお友達がコピーして、というわけらしい。ご連絡はしてください。しかも、誰か間違えて歌って、その詩が広がったらしいので、そちらで歌っている方のほうが多いかもしれません。
で、何が間違いかというと、まず、出だしです。しょっぱな!
『空と水のあいだ』 という出だしを
「空と海のあいだ」 としている。
空と水では言葉のイメージが全然違いますよ。海はイメージとして、青さや波のうねり、きらめきも背負っている。けれども、水のイメージは青くないです。水色、と言えばこそ青に近くなりますが、水を飲みたい、と言った時、青い水を飲むつもりの人がいるでしょうか。この詩は暗いんです。陰鬱な世界です。そこで空と水、といわれたら、たっぷりの重量感です。そして太陽のない海で、灰色です。
(似たような出だしがあったな、と思ったでしょう。「シチリア」です。こっちの歌は、テンポもそこそこ軽いです。)
水と海では大違いで、モノクロームの画面から始まるはずのものがいきなり、カラーになってしまった。
あともうひとつ、決定的な間違い。詩の品性にも関わってきます。
なぜ別れたのか
『あなたしか愛せないのに』 が
「あなたしか愛せないの」 になってしまっている!
たった一字ですが、これがあるのとないのでは大違いなのです。
「愛せないの」というとまあ、女言葉ですよね。ちょっと見、かわいい。
ではどんなイメージになるかというと、身をくねらせておすがりする女のひと。
よよと身をよじって泣き甘える女性。かえってきてぇ、ねえ、と相手に呼びかけちゃっている。
そうではないんです。もう絶望的なんです。どんなことをしても別れてはいけなかったのに、「あなたしか愛せないのに」、もう別れてしまって、二度と会う希望はなく心は暗く陰鬱な絶海の、誰も通えない孤島のよう - だから、「孤独の島」なんです。
間違えて覚えてもう歌ってしまっている、という方、正しく覚え直すとともに、ご連絡ください。もう覚えちゃって直せないなら - 正直、歌ってほしくない、です。
左右にスクロールして表示させてください
孤独の島
空と水のあいだ
その身をゆだねた
島よ
蔑み(さげすみ)のように
閉ざされ
行くすべのない
舟も通わぬ
孤独の島
そこでは海にむかって
ひとりさだめを見つめる
森の奥よりも孤独に
光りさえもなく
征服の望みもなく
やがては知るだろう
なぜ別れたのか
あなたしか愛せないのに
眠るこどものよう
その身は静かに
島よ
黄金(こがね)の標的のように
汚(けが)れも
偽りも知らない
死さえ怖れぬ
孤独の島
そこでは海にむかって
われとわが手で裁かれる
死のときよりも孤独に
希望さえもなく
わたしのセントヘレナよ
心は失われて
なぜ別れたのか
あなたしか愛せないのに
空と水のあいだ
その身をゆだねた
島よ
蔑みのように
閉ざされ
いくすべのない
それはあなた
わたしの島

「孤独の島 / Une île(島)」は、セルジュ・ラマ(Serge Lama)が作詞し、イヴ・ジルベール(Yves Gilbert)が作曲した作品で、1969年のユーロヴィジョン・コンクールのフランス代表曲候補にものぼった作品。(ちなみに、代表曲となったのはフリーダ・ボッカーラの「リラの季節」)ここで歌われるセントヘレナ島は、ナポレオンが幽閉され絶望の死を迎えた場所ですね。
- 現在、この詩で歌われている方は、どうか是非私にご連絡くださるようお願いします。
詩の権利は作った人に属するもので、最初に歌われた方にあるのは初演権です。
ましてや人から人への転売は犯罪です。長い間そのことが誤解されてきましたが、ご理解いただければと存じます。アマチュアでひとりで口ずさむだけとおっしゃる方はともかく、ステージに立っていらっしゃる方やレッスンで使われている方は必ずご連絡ください。
また、今後歌いたい方もご連絡くだされば、歌についてのご説明もします。